誘電体中における電場【電磁気学を分かりやすく解説】

電場を表す式には、よく真空の誘電率ε0が入っています。この式は真空中ではもちろん問題ないのですが、真空以外の一般の物質中ではその物質が起こす分極の影響で、実際に測定される電場とずれてしまうんです。分極がどんな風に影響を与えるのか考えていきます。

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誘電分極

誘電体というは絶縁体と同様に電気を流しません。電場の中に誘電体を置くと、誘電体を構成している原子や分子に電気的な偏りが生まれます。これを誘電分極と呼びます。

原子の中にある原子核と電子はそれぞれプラスとマイナスの電荷を持つので、電場によってそれらの位置関係がわずかにずれるのです。こうなることで、電気的に中性だった原子の中でプラスの電気を帯びた部分とマイナスの電気を帯びた部分が生まれます。

また分子には、構造的にはじめから電荷分布に偏りがあるものがあり、そういった分子は電場によって向きがある決まった方向にそろいます。

位置関係がずれると言っても、金属中の自由電子と異なり、誘電体では原子や分子はもちろんのこと、電子も動き回ることはできません。元の位置に束縛されていて、そこからわずかに移動するだけです。

どれだけ分極が起きたかを分極ベクトルで表す

分極ベクトルというのは、分極によって単位面積を通過したプラスの電荷を表します。ベクトルの向きが電荷がずれる方向を表します。

分極した原子や分子は、電子の平均的な位置がずれることで電気的にプラスの部分とマイナスの部分が現れている訳ですが、これをプラスの電荷の移動だけで起きたと見なして、どれだけの電荷がその場所を通過したかを単位面積あたりで表現したものが分極ベクトルです。

分極がつくり出す電場

分極が起こるときというのは必ず同量のプラスとマイナスの電荷が対になってできます。すごく単純に言えば、分極が起こった誘電体中には無数のプラスとマイナスの電荷が交互に並んでいると言えるでしょう。いったん先に大まかな話をして、記事の後半で数式を使った厳密な説明をしていこうと思います。

いま、一様な電場(図中で右向き)を誘電体にかけて分極が起こり、図1で示すように電荷がずれたとします。分極ベクトルの向きも右向きです。ここで誘電体内を2つの領域に分けて、それぞれ左から領域A、領域Bとしましょう。

図1のように負−正の間で区切った場合だと、領域A内の正味の電荷は負で、領域Bでは正味の電荷は正になります。するとガウスの法則より、領域A内の電荷がつくる電場は領域Aへ向かう向きに、領域B内の電荷がつくる電場は領域Bから離れる向きにできることになります。

電場は図における横方向にのみに生じることを考慮すると(縦方向には電気的な偏りができない)、領域A、Bそれぞれの電荷がつくる電場を足し合わせると、領域AとBの間の場所に左向きの電場ができることが分かります。誘電体の外では互いに向きが逆なので打ち消し合います。結局、領域AとBの間に置かれた電荷というのは、左側には負の電荷が、右側には正の電荷がいるように感じられるということです。

次に図2のように正−負の間で区切った場合を考えます。このように区切ると領域A、Bは両方とも正味の電荷は0です。よって、領域AとBの間の場所には分極による電場は存在しません。

現実はもう少し複雑

現実の誘電体では、この図のように正負の電荷がキレイに整列しているとは限らないでしょうし、何よりものすごく小さいです。そんなところで2つの領域を考えるにしても、境界線を負−正の間だけもしくは、正−負の間だけに引くというのはほぼ不可能です。だからといって上で説明したことが破綻するという訳ではありません。

現実では図1と2の分け方の中間になると考えられます。もっと言えば、電荷と電荷の間で分かれている必要もなくて、境界線が電荷の上を通っていても成り立ちます。その電荷は、一部は領域Aに、残りは領域Bに含まれることになります。図2の状態から図1や図3(本質的には図1と同じ)の状態へ領域の境界線を動かしていく様子を想像して下さい。どこで分けても領域A内の合計の電荷は0か負、領域Bだと0か正にしかならないことが分かります。

奇跡的に電荷のバランスが取れた位置が見つかったとしたら、その場所に限っては分極がつくる電場は0、それ以外の場所では分極ベクトルと逆向きに電場が発生することが言えます。そしてこの電場が外部からの電場を弱めることになるのです。

誘電体内に真電荷が置かれたときにできる電場

いま、電荷qが誘電体の中にあったとして、その周りにできる電場がどう表されるかを考えます。分極でできる電荷と区別するために真電荷と呼ぶことにします。考え方は上でやったのと同じです。こちらではもうすこし厳密に数式で表現していきます。

真電荷自体がつくる電場というのは、真空中でも誘電体中でも変わらないと考えることができて、それをE0とします。誘電体があると、真電荷がつくった電場と分極によって現れた電荷のつくる電場が重なり合ったものが実際に観測される電場となります。

誘電体内の電荷保存則

分極というのは、もともと同じ場所で重なっていたプラスとマイナスの電荷がずれることとみなせます。誘電体内である領域を考えたときに、ずれによって領域から出ていった電荷と入ってきた電荷を合計してやると、その領域内に現れる正味の電荷というものが求まります。

分極ベクトルというのは、単位面積あたりに現れてくる電荷を表すものでした。それをPと表すことにしましょう。上で書いたことをもう少し厳密に表現すると、ある領域を考えて、その表面Sに渡って分極ベクトルを面積分してやると、分極によってその領域に生じる正味の電荷qpにマイナスの符号がついたものが出てきます。(なぜマイナスが付くかと言うと、分極ベクトルが正の電荷の動く向きを表しているため、領域から出ていく分を正として計算してしまうためです。)

\(\begin{align}\oint_S\boldsymbol P(\boldsymbol r)\cdot d\boldsymbol S=-q_p\end{align}\)

誘電体の表面を含まない内部においては、どんな領域を考えても入ってくる量と出ていく量というのは同じになります。局所的に見れば電荷が入ってくる場所があったとしても、そのすぐそばには反対に電荷が出ていく場所が存在するはずで、ある程度の範囲で見てやれば正味の電荷の出入りは0とみなせるのです。つまり、誘電体の表面よりも内側で任意の閉曲面を考えて上の計算を行っても答えは0になります。

だからと言って、誘電体内部では電場が0と言えるわけではありません。ガウスの法則が教えてくれるのは、あくまでその領域内の電荷がつくる電場についてであって、領域の外の電荷がつくる電場については何も言えません。上の計算の結果が0になることは、誘電体内部は電場の生成に寄与しないということが言えるだけです。

誘電体表面を含む領域だと話が変わる

誘電体の表面というのは内部と異なり、電荷が出ていく側なら出ていくだけ、入ってくる側なら入ってくるだけのどちらかしかありません。真電荷の周りは、真電荷を囲むように誘電体の表面ができているとみなせて、ここには分極によって真電荷と反対の符号の電荷が現れることになります。この表面をすっぽりと囲むような閉曲面で分極ベクトルを面積分してやると、真電荷の周りに現れる電荷qsが求まります。

\(\begin{align}q_s=-\oint_S\boldsymbol P(\boldsymbol r)\cdot d\boldsymbol S\end{align}\)

誘電体が有限の大きさだと、誘電体外側の表面に現れる電荷(真電荷と同符号)も考慮する必要があります。しかし、ここでは誘電体が十分大きい場合を考えることにし、外側の表面に現れる電荷は無限遠にあるとして無視します。

そうすると結局、誘電体内にできる電場というのは、真電荷qとその周りに現れたqsがつくる電場ということになります。この電場をEとします。電荷qとqsを囲む閉曲面についてガウスの法則を用いると、

\(\begin{align}\oint_S\boldsymbol E\cdot d\boldsymbol S & =\dfrac{q+q_s}{\varepsilon_0}\\&=\oint_S\boldsymbol E_0\cdot d\boldsymbol S-\dfrac{1}{\varepsilon_0}\oint_S\boldsymbol P\cdot d\boldsymbol S\\&=\oint_S\big(\boldsymbol E_0-\dfrac{1}{\varepsilon_0}\boldsymbol P\big)\cdot d\boldsymbol S\end{align}\)

電荷qとqsを囲んでいればどんな閉曲面でも上式の最後が成り立つということは

\(\boldsymbol E=\boldsymbol E_0-\dfrac{1}{\varepsilon_0}\boldsymbol P\)

が言えます。P/ε0の次元というのは電場に相当します。そして向きは分極で電荷が移動する向き、つまり真電荷のつくる電場と同じ方向です。すると上の式は、誘電体内で観測される電場というのは、真電荷のつくる電場から分極による効果の分だけ弱くなると言っているのです。

電束密度は誘電率に依らない

さらに上の式の両辺にε0をかけると

\(\varepsilon_0\boldsymbol E_0=\varepsilon_0\boldsymbol E+\boldsymbol P\)

式の左辺は真電荷のつくる電束密度を表します。それをD0とすると

\(\boldsymbol D_0=\varepsilon_0\boldsymbol E+\boldsymbol P\;\;\cdots\cdots①\)

真電荷の出す電束密度は、誘電体の外では当然100%が電場E0に対応していますが、誘電体の中に入るとそのうちの一部(ε0E[本])は電場Eを形成し、残りは分極に対応することになります。電気力線は、その密度が電場の強さを表すので誘電体の外と中で本数が変わることになりますが、電束は誘電体があってもなくても変わらないのです。

そして分極ベクトルというのは多くの場合、誘電体内にできる正味の電場Eに比例することが知られており、

\(\boldsymbol P=\chi \boldsymbol E\)

と書けます。χは電気感受率と言います。これを①に代入すると

\(\boldsymbol D_0=(\varepsilon_0+\chi)\boldsymbol E\)

ε0+χ を誘電体の誘電率εと定義すれば上式は

\(\boldsymbol D_0=\varepsilon\boldsymbol E\Longleftrightarrow\boldsymbol E=\dfrac{1}{\varepsilon}\boldsymbol D_0\)

誘電体内で観測される電場というのは、真電荷のつくる電束密度を使って表現できるということが言えて、その際の仲立ちをするのが誘電率ということです。