静電ポテンシャル【電磁気学を分かりやすく解説】

電場をつくる点電荷が複数あったり、電荷が連続的に分布していたりする場合では、一般的には直接電場を計算して求めるのは難しいことが多いです。電場はベクトルなので、𝑥,𝑦,𝑧の3つの成分それぞれについて計算する必要があるのです。静電ポテンシャルというのは、そんな大変なことをしなくても、もう少し楽に求電場を求めることができる便利な道具のようなものなのです。

便利ではあるけれども、どんなときにでも使えるわけではなく、電場が保存力の場になっている場合のみ、言い換えると磁場が時間的に変化しない静電場においてのみ定義できるものです。静電ポテンシャルの成り立ちに深く関係する保存力から簡単に説明します。

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保存力のもとでは仕事が経路に依らない

力が物体を移動させると、その力は仕事をしたことになりますが、保存力というのは物体をどんな経路で移動させてもその仕事は始点と終点の位置だけで決まり、経路には依存しません。言い換えると、保存力はどんな経路で線積分しても、始点と終点の位置のみで値が決まるということです。

そして静電場では、電荷に働く力が保存力になっています。そこで、基準となる位置r0を決めておけば、その点から電場に逆らって位置rまで電荷を運ぶという仕事はrのみの関数として書けるはずです(電荷にかかる外力は常に−𝑞𝐸(r)に等しいため)。電荷を引っ張る際には、速度を持たせないようにゆっくりと動かすものとします。

これを𝑊r₀(r)としましょう。すると𝑊r₀(r)というのは、電荷に働く電場とは逆向きの外力𝐹=−𝑞𝐸(r)をr0からrまで任意の経路で線積分したものになります。経路が任意なので、位置のベクトルrの方向に沿って線積分することにすると

\(\begin{align}𝑊_{r_0}(\boldsymbol r)&=\int_{\boldsymbol r_0}^\boldsymbol r\boldsymbol F\cdot d\boldsymbol r\\&=-\int_{\boldsymbol r_0}^\boldsymbol rq\boldsymbol E(\boldsymbol r) \cdot d\boldsymbol r\end{align}\)

と書けます。これは、r0という決まった位置からrという位置まで電荷を運ぶのに必要なエネルギーを表しているとも言えます。始点と終点の位置だけでその間を移動するのに必要なエネルギーが定まるのです。

位置エネルギーと静電ポテンシャル

そこで電場の中に置いた電荷には、仮想的にその位置に応じて決まったエネルギーが蓄えられると考えて、空間上のある2点間を移動するのに必要なエネルギーは、その2点のエネルギー差に対応するという見方をしましょう。つまり、移動に必要なエネルギーは、終点でのエネルギから始点でのエネルギーを引いたものということです。このように、置かれた位置に応じて物体に蓄えられるエネルギーを位置エネルギーと呼びます。

外力が電場に逆らって仕事をする(電場が負の仕事をする)と、その分のエネルギーは位置エネルギーとして電荷に蓄えられると考えるのです。反対に、電場が電荷に正の仕事をすると位置エネルギーは減少することになります。

外力が正の仕事をすると増加するように符号をつけるので、位置エネルギーというのは、それを持つ電荷に対して電場が将来にどれだけの仕事ができるかを表す、潜在的なエネルギーと言えます。これが英語名のポテンシャルエネルギーの由来です。本当に電場の中においた電荷がエネルギーを持つかどうかは別にして、そのようなものを想定すれば、電場においてエネルギー保存則を考えることができるのです。

それでは静電ポテンシャルとは何かというと、静電場中で+1[C]の電荷が持つ位置エネルギのことです。ここまでは𝑞という電気量の電荷について考えてきましたが、同じ位置でも電荷によって位置エネルギーの大きさが変わってしまいます。そこで、+1[C]あたりの位置エネルギーを静電ポテンシャルと呼び、区別します。単位は[J/C]もしくは[V]です。電圧も同じく[V]という単位ですが、2点間の静電ポテンシャルの差を表すものだったのです。

ポテンシャルには基準となる場所が必要

静電ポテンシャルには絶対的な値というのはありません。本質的には、ある位置と比較すると、そこよりどれだけエネルギーの高さに差があるかが言えるだけなのです。でもそれだと扱いにくいので、通常は無限遠をポテンシャルの基準に取ります。つまり無限遠で静電ポテンシャルの値は0になるとしておくのです。こうしておけば、その約束のもとでのみ通用する値を静電ポテンシャルに定めることができます。

𝐸(r)で表させる静電場があったとして、rという位置における静電ポテンシャルを𝜙(r)と表すことにします。そしてrという考えている場所から十分遠く離れた場所を静電ポテンシャルの基準とします。空間上の2点間の静電ポテンシャルの差は、その間を電場に逆らって+1[C]の電荷を移動させるのに必要なエネルギー(仕事)なので

\(\begin{align}\phi(\boldsymbol r)-\phi(\boldsymbol r_\infty)&=\int_{\boldsymbol r_\infty}^\boldsymbol r\boldsymbol F\cdot d\boldsymbol r\\&=-\int_{\boldsymbol r_\infty}^\boldsymbol r\boldsymbol E(\boldsymbol r) \cdot d\boldsymbol r\end{align}\\\Longleftrightarrow\phi(\boldsymbol r)={\displaystyle -\int_{\boldsymbol r_\infty}^\boldsymbol r\boldsymbol E(\boldsymbol r) \cdot d\boldsymbol r\;\;\;\;\;\;\big(\;\because\;\phi(\boldsymbol r_\infty)=0\;\big)}\)

点電荷の電場による静電ポテンシャル

電気量が𝑞の点電荷がつくる電場は

\( \boldsymbol E(\boldsymbol r) = \dfrac{q}{4\pi\varepsilon_0r^2}\dfrac{\boldsymbol r}{r}\)

静電ポテンシャルを𝜙(r)とし、無限遠(r=r)から外力によって電荷を運んでくる仕事(電場が負の仕事をする)を考えると

\(\begin{align}\phi(\boldsymbol r)-\phi(\boldsymbol r_\infty)&=\int_{\boldsymbol r_\infty}^\boldsymbol r-\boldsymbol E(\boldsymbol r)\cdot d\boldsymbol r\\&=\int_{\boldsymbol r_\infty}^\boldsymbol r-\dfrac{q}{4\pi\varepsilon_0r^2}\dfrac{\boldsymbol r}{r}\cdot d\boldsymbol r\\&=\int_{\infty}^r-\dfrac{q}{4\pi\varepsilon_0r^2}\dfrac{r}{r}dr\\&=\int_{\infty}^r-\dfrac{q}{4\pi\varepsilon_0r^2}dr\\&=\Big[\dfrac{q}{4\pi\varepsilon_0r}\Big]_\infty^r\\&=\dfrac{q}{4\pi\varepsilon_0r}\end{align}\)

drというのは、位置のベクトルrと同じ方向を持っているので、rとdrの内積はr drになります。点電荷のつくる電場は球対称なので、どこでも電場がrと同じ向きを向いています。そのために計算が簡単に進むのです。

静電ポテンシャルには絶対的な値というのはないので、無限遠での値を0と決めれば位置rでの値というのは

\(\begin{align}\phi(\boldsymbol r)=\dfrac{q}{4\pi\varepsilon_0r}\end{align}\)

という形に書くことができます。点電荷からの距離だけに依存する関数として書けており、反比例のグラフを𝑦軸について回転させてできる回転体のような形をしています。3次元空間中では、その姿をグラフで表すとことはできないので、ポテンシャルの高さを色の濃淡で表現することにしてやれば、点電荷に近いところほど色が濃くなるものが描けます。

今は、点電荷の位置を座標の原点に取りましたが、より一般的に、空間上の位置r0にある点電荷𝑞がrという場所につくる静電ポテンシャルは𝜙(r)は

\( \phi(\boldsymbol r) = \dfrac{q}{4\pi\varepsilon_0\left| \boldsymbol r-\boldsymbol r_{0}\right|}\)

と書けます。|r - r0|というのはr0からrまでの距離を表しています。

点電荷が複数存在する場合は、電場と同様にそれぞれがつくるものを重ね合わせることで、最終的にできる静電ポテンシャルが求まります。

静電ポテンシャルと電場の関係

静電ポテンシャルなどという仮想的なものを定義して何の役に立つかというと、電場を直接求めようとするより、静電ポテンシャルを求めておいて、それにある操作を行って電場を導く方が楽に計算できることがあるのです。

静電ポテンシャルからどのようにして電場が出てくるかというと、数学的な証明はここではしないですが、静電ポテンシャルを𝜙(r)、電場を𝐸(r)とすると

\(\boldsymbol E=-grad\;\phi\)

が成り立ちます。gradというのは、スカラー関数に作用する演算子で、作用した結果ベクトルが出てきます。どんなベクトルが出てくるのかと言うと、その点においてスカラー関数の変化率(傾き)が最大になる方向を向いていて、その変化率を大きさ(勾配)に持つようなベクトルです。山の斜面で言うなら、傾斜が一番急になっている方向(登っていく向きを正)がgradを作用させて出てくるベクトルの向きです。

上の式でマイナスが付いているのは、電場というのは静電ポテンシャルを下っていく(場が2次元平面上にある場合)方向を向いているということです。その方向に正の電荷を動かすと電場が正の仕事をすることになり、位置エネルギーが減少します。

それでは具体的にgradを作用させるというのは、どんな計算をすることなのかというと、𝜙を𝑥,𝑦,𝑧を変数に持つ関数として、𝜙を𝑥,𝑦,𝑧のそれぞれで偏微分したものを𝑥,𝑦,𝑧成分に持つベクトルをつくるということです。ベクトルは本来、縦に書くものですが横に成分を並べることにすると

\(grad\;\phi=\Big(\dfrac{\partial \phi}{\partial x}\;,\;\dfrac{\partial \phi}{\partial y}\;,\;\dfrac{\partial \phi}{\partial z}\Big)^\top\)

ここで、偏微分作用素を次のように成分に持たせた演算子をつくります。名前はナブラといい、記号は∇で表します。

\(\nabla=\Big(\dfrac{\partial}{\partial x}\;,\;\dfrac{\partial}{\partial y}\;,\;\dfrac{\partial}{\partial z}\Big)^\top\)

この演算子ナブラをベクトルと同じように捉えて、𝜙にかけるとgrad 𝜙と同じ結果が出てきます。

\(\begin{align}\nabla\phi&=\Big(\dfrac{\partial}{\partial x}\;,\;\dfrac{\partial}{\partial y}\;,\;\dfrac{\partial}{\partial z}\Big)^\top\phi\\&=\Big(\dfrac{\partial \phi}{\partial x}\;,\;\dfrac{\partial \phi}{\partial y}\;,\;\dfrac{\partial \phi}{\partial z}\Big)^\top\\&=grad\;\phi\end{align}\)

∇を使えば電場は

\(\boldsymbol E=-\nabla\phi\)

と書くこともできます。

連続的に分布する電荷による静電ポテンシャル

電荷密度が𝜌(r)で表される電荷分布がある場合に、それによってできる静電ポテンシャルを𝜙(r)とします。これがどう表せるかというと、電荷が分布する領域を分割し、それによってできる微小領域における電荷のつくる静電ポテンシャルを積分することで求まります。

\(\begin{align}\phi(\boldsymbol r) = \int\dfrac{\rho(\boldsymbol r')}{4\pi\varepsilon_0\left| \boldsymbol r-\boldsymbol r'\right|} dV'\end{align}\)

𝜌(r')d𝑉'というのは、r'という位置にある微小領域の電荷を表していて、微小領域を十分小さく取ることで点電荷とみなしているのです。